医療事故の再発防止に向けた提言「入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析」公表 日本医療安全調査機構
一般社団法人日本医療安全調査機構は、6月4日、医療事故の再発防止に向けた提言(第9号)「入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析」を公表しました。
日本医療安全調査機構は、2015年10月より開始された医療事故調査制度に基づき、医療事故調査・支援センターとして医療の安全を確保し医療事故の再発防止を図ることを目的に取り組んでいますが、このたび、医療事故調査制度の開始から3年8か月が経過し、医療事故調査・支援センターとして第9号の再発防止に向けた専門分析部会提言書をまとめました。制度開始から2018年12月までの3年3か月間に院内調査が終了し、医療事故調査・支援センターに報告された院内調査結果報告書は908件となりました。
第9号の分析課題(テーマ)としては「入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例」を取り上げました。対象事例は、医療事故調査制度において報告された11事例です。転倒・転落による頭部外傷により死亡する事態に至った事実の重大性に鑑み、今回の提言をまとめました。
【転倒・転落後の診断と対応】
提言1:転倒・転落による頭部打撲(疑いも含む)の場合は、受傷直前の意識状態と比べ、明らかな異状を認めなくても、頭部CT撮影を推奨する。
急速に状況が悪化し、致命的な状態になる可能性があるため、意識レベルや麻痺、瞳孔所見などの神経学的所見も観察する。
提言2:頭部打撲が明らかでなくても抗凝固薬・抗血小板薬を内服している患者が転倒・転落した場合は、頭蓋内出血が生じている可能性があることを認識する。
初回CTで頭蓋内に何らかの出血の所見が認められる場合には、急速に増大する危険性があるため、予め時間を決めて(数時間後に)再度、頭部CTを撮影することも考慮する。
提言3:頭部CT上、出血などの異常所見があれば、脳神経外科医師の管理下に迅速に手術ができる体制で診療を行う。
常勤の脳神経外科医師がいない病院や時間帯では、迅速に対応できるよう脳神経外科手術が可能な病院へ転送できる体制を平時から構築しておく。
【転倒・転落時に頭部への衝撃を和らげるための方法】
提言4:ベッド柵を乗り越える危険性がある患者に対して、ベッドからの転落による頭部外傷を予防するため、衝撃吸収マット、低床ベッドの活用を検討する。また、転倒・転落リスクの高い患者に対しては、患者・家族同意のうえ、保護帽の使用を検討する。
【転倒・転落リスク】
提言5:転倒・転落歴は、転倒・転落リスクの中でも重要なリスク要因と認識する。また、認知機能低下・せん妄、向精神薬の内服、頻尿・夜間俳諧行動も転倒・転落リスクとなる。
提言6:転倒・転落リスクの高い患者への、ベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤をはじめとする向精神薬の使用は慎重に行う。
【情報共有】
提言7:入院や転棟による環境の変化、治療による患者の状態の変化時は、転倒・転落が発生する危険が高まることもあるため、病棟間や他部門間、各勤務帯で患者の情報を共有する。
【転倒・転落予防に向けた多職種の取り組み】
提言8:転倒・転落リスクが高い患者に対するアセスメントや予防対策は、医師や看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、介護福祉士などをふくめた多職種で連携して立案・実施できる体制を整備する。