臍帯血の違法投与で声明発表 日本医師会
日本医師会は、8月30日の定例記者会見で、「臍帯血の違法投与に対する声明」を発表しました。
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今般、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(再生医療等安全性確保法)違反容疑で、民間の臍帯血販売業者と臍帯血を投与した医師が逮捕された。この事件は、本年5~6月にかけて、再生医療等安全性確保法で義務付けられている第一種再生医療等提供計画を、国に提出せず臍帯血の投与をしていたとして、10以上の医療機関が同法の規定に基づく当該再生医療等の提供の一時停止命令を受けたことに関連するものである。
再生医療は、難病治療への活用をはじめとして大きな期待のかかる医療である。その一方で、再生医療にはまだ未解明な部分も多く、その実施に当たっては安全性と有効性の慎重な判断、治療を受ける患者に対する十分な説明と同意が、医師に強く求められることは論を俟たない。
今回逮捕された医師は、再生医療等提供計画の届出違反のみではなく、再生医療等安全性確保法の適用除外となるよう、カルテの傷病名を改竄していたとの一部報道もある。事実関係の解明が急がれるが、これが事実だとすれば極めて悪質と言わざるを得ない。
高い倫理観と医療安全の追求は、常に医師の根幹になければならない。日本医師会では平成10年に「会員の倫理・資質向上委員会」を設置し、医師の倫理向上のための種々の取り組みを行っている。平成12年に採択した「医の倫理綱領」では、「医師は医療を受ける人びとの人格を尊重し、やさしい心で接するとともに、医療内容についてよく説明し、信頼を得るように努める」こと、また「医師は医療の公共性を重んじ、医療を通じて社会の発展に尽くすとともに、法規範の遵守および法秩序の形成に努める」ことなどを、医師の持つべき倫理観として謳っている。
医学・医療の進歩と発展は、再生医療やゲノム編集などの新たな可能性を拓き、国民にとって大きな福音となる可能性を秘めている。しかし同時に、医師には医療倫理や生命倫理に対するより深い理解と責任ある行動が強く求められている。改めて、医師として持つべき倫理観と社会的使命を、すべての医師が認識すべきである。
また、今回医療機関が投与した臍帯血は、倒産した民間の臍帯血バンクが保管していたものを別の業者が販売したものであると言われており、保管状況によっては深刻な感染症のリスクも懸念されるものである。
今回の事件によって、再生医療全体の進歩が阻害されることがあってはならないと考える一方で、国は、民間の臍帯血バンク等の業者による臍帯血などの人体組織の保管や流通に関して、法的な規制を含め厳格な監督・監視体制の整備を早急に検討する必要があると考える。加えて、国民に向けた再生医療に関する正しい知識の普及と啓発に、一層の努力を傾注することを望む。
日本医師会は、厚生労働省の厚生科学審議会再生医療等評価部会などの場を通じて、それらの実現に向けて積極的に発言していくとともに、国民の健康に資する再生医療の環境整備に向けて、今回の事件の真相が速やかに解明され、適切な再発防止策が取られるよう今後とも注視していきたい。