日本薬剤師会が東日本大震災におけるお薬手帳活用事例
日本薬剤師会は、6月7日の記者会見で、「東日本大震災におけるお薬手帳の活用事例」の取りまとめについて発表しました
日本薬剤師会では、平成23年9月27日付通知で「東日本大震災におけるお薬手帳の活用事例」の報告を依頼しましたが、このほど報告された活用事例を取りまとめました。「これらの事例が広く周知されることにより、お薬手帳がより一層、医薬品の安全・安心な供給と使用のために有用なツールとして普及・活用されることを期待いたします」としています。
平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、津波被害等により医療機関や薬局、カルテや薬歴等の医療インフラが大きな被害を受けました。
そのような環境の中、お薬手帳の活用により、スムーズかつ適切に医薬品が供給され、適切に医療が提供される場面が多く見受けられました。
今般の災害で、お薬手帳が医療情報を集積・共有する媒体として有用であったこと、またお薬手帳による患者への医療情報の開示により納得・安心して医療を受けることにつながるなど、お薬手帳の有用性が改めて経験として得られたことから、日本薬剤師会では、お薬手帳の活用を一層推進するため、震災時におけるお薬手帳の活用事例を収集しました。
事例収集時期は平成23年9月~11月、対象者は被災地で支援活動を行った薬剤師ほか医療・保健関係者で、都道府県薬剤師会を通じて対象者へ報告用紙を配布し、日本薬剤師会へ直接、または都道府県薬剤師会で取りまとめの上、日本薬剤師会へ報告する方法で収集しました。報告事例件数は849件です。
東日本大震災の被災地の状況
・ 津波により医療機関・薬局そのものも、カルテ・薬歴も失われている
・ 医療スタッフが短期間で交代する
・ 薬の量、種類が乏しい(短期間処方、頻回受診にならざるを得ない)
・ 在庫される薬の種類や規格が頻繁に変わる
・ 避難所移動などが頻繁
・ 直接的な被災地ではなく通常の医療体制がある場合でも、交通手段が無いために(ガソリン不足)いつも通っている医療機関を受診できない
・ 遠方への避難
活用された主な場面については、
(1)被災直後~混乱期
直接的に津波被害を受けた地域では多くの方がお薬手帳も流されていた。被災前に使用していたお薬手帳を持参された方は、手帳の記載情報が処方や使用医薬品の選択、代替薬の提案に非常に役立った。
(2)中長期(避難所等)
救護所、仮設診療所で受診された方へのお薬手帳交付や、薬剤師の避難所巡回活動等により服薬内容等を聞き取ってお薬手帳に記載してお渡しすることができるようになった。医薬品使用者の多くにお薬手帳が普及し、受診や健康相談の際に活用され、医療関係者等の重要な情報共有ツールとなったとともに、使用者本人の薬剤管理に役立った。
(3)他地域への移動(2次避難、転居)
被災地の避難所から、2次避難先など、通常の医療提供体制がある地域に移られた際にも、お薬手帳の情報によりその後の医療にスムーズに引き継がれた。
(4)個別事例
お薬手帳について、様々な場面で情報共有ツール、情報開示ツールとして有効に活用され、また「手帳」というアナログな媒体であったことがむしろ、電力供給に左右されることなく、特別な読取装置などがなくても活用でき、即時に閲覧や記入が可能であるという利点を発揮。また、本人が所有する手帳に情報が蓄積されることが、医療スタッフの交代や受診先の変更があっても即時かつ確実に情報を伝達することを可能にしました。
医療スタッフの間では、カルテ・薬歴代わりとしても活用され、検査値や体調などを書き込んでいくことで、医療スタッフの申し送り・伝言板的な役割も果たしました。
同時に、患者自身にとってのお薬手帳の意義も改めて明らかになりました。