yoshio's blog

2012年5月

寄り道Ⅳ 育星会の選択(分裂の危機からの脱出)

昭和49年に処方せん発行料が50点となり、医薬分業が進むものと期待しましたが、期待したほどは進みませんでした。薬を扱いたくないと考える一部の診療所が少しずつ発行する程度でした。

そこで処方せん発行を促進したのが、病院薬剤師の病棟業務にフィーをつけるということです。昭和633月の診療報酬改定により入院調剤技術基本料が新設され、診療報酬点数100(病床数300床以上)が認められました。薬剤師が入院患者に服薬指導を行った時につくフィーですが、そのことにより、それまで関心を示さなかった病院が分業について考え始めました。特に、国公立病院が中心となって、薬剤師を病棟に上げるように考え始めました。

外来が忙しいため病棟に上げる薬剤師が足りません。もう少し補充してほしいという要望が出るわけですが、病院の薬剤部の技術料が少ないため簡単に補充という方法をとることはできません。ですから、診療報酬面で何ら貢献のない外来調剤よりも病棟の方が「合理的だ」と考え、病棟に上げることを推進し始めました。昭和63年に始まった入院調剤技術基本料が「月1100点、300床以上」から、4回の改定を経て「月245050点、病床数規制撤廃」(名称も平成6年から薬剤管理指導料に変更)になってしまいました。処方せん発行のバブルが始まったわけです。

それまでは、処方せん発行が難しい状況であったのを「出して欲しい」と要望し、OKをもらって初めて土地を探し、薬局を開設していました。ところが、病院側、つまり発行側の都合で勝手に処方せんが発行されるようになったわけです。病院側と話し合いをする必要がなくなりました。

そうなりますと、病院の前とか、処方せんを出しそうな医療機関の前に、目の前、一等場所に土地を確保するという競争になりました。これによって、急激に調剤薬局が増えました。この時期を境に大手メーカーや卸業など病院の情報と資本のある他業種が参入して来るわけです。

それまで、育星会は医師とよく話をして、相手を選んで、信用できそうな医師と分業をするということを大原則にしていました。このバブルが起きた時に、そのバブルに参加して多数店舗展開を図るか、それまで通りコツコツと進むのかという転機に直面しました。

私と川久保君は非常に悩みました。どちらに進むべきか。川久保君は、他資本を導入した店舗展開をしたいという強気の意見でしたので、私との間で意見が分かれました。その時に、一挙に増やしていこうと思えば資金が必要になります。そのためには、自己資本ではやっていけませんので、借入をしなければならないわけです。銀行借入、他資本導入や上場して資金を調達するという方法があります。そうなりますと、「小さな街の薬局が集まって創った夢の調剤薬局」ではなくなります。自分たちの理想とする薬局ができなくなりそうな不安に駆られました。

資金調達しようとすればできないことはありませんが、「そのような薬局で良いのか」ということになります。そうではなく、今まで通り、相手を見ながら、コツコツと、借入をしないでやって行きたいということでした。二者択一になりました。二人がお互い歩み寄った合意点は、他資本を入れるとか、銀行からの借入を行うという時期ではまだないという判断をしたわけです。

薬剤師としては合格でも、企業家としては失格だったんでしょうね。

特に、育星会の実家であるJOVYが上場を計画していましたので、その時に育星会も合併して上場し、資金を集めて店舗をどんどん増やしていこうということになりました。そしてそれまではコツコツとやっていこうという方針に決まりました。拡大路線の川久保君と激しくて長い激論の末、今まで通り他資本を入れずにコツコツとやっていこうと折り合いがつき、以後川久保君はJOVYの社長として乗り出す事になりました。二人の意見の一致点に収まったのが、「実家であるJOVYの上場まで待とう」ということです。

当時、次々と土地を確保したチェーン薬局があったのですが、「土地を確保し、薬局もつくったが、処方せんが出そうにない」ということで資金が持たず、「育星会に買ってほしい」という話が結構たくさんありました。小規模チェーンでは倒産したケースもありましたし、売りに出て経営者が替わったケースもあります。うまくその波に乗ったのが現在の大型チェーンです。

育星会も、あの時に、有り金をはたいて土地を購入するなどの展開を図ったとすれば、土地急騰の時代でしたので、もし分業が実現しなければ、売る時に大きな損失となって借入金だけ残った事と思いますし、今のような素晴らしい育星会社員が出来なかっただろうと考えています。この大きな転機に直面し、JOVYと合併して上場する時に改めて検討する」という決断が正しかったものと今でも確信しています。

2012/05/10(木) 00:00